私にとって、探偵小説の代名詞といってもいい作品を残した横溝正史氏は、多くの謎もまたそこに提起していたといっても過言ではない。角川春樹事務所映画第一作である「犬神家の一族」がその横溝正史の作品を選択したのも、また大きな理由なのかも知れない。
横溝正史は多くの探偵小説を残している「金田一耕助」シリーズは、彼の大いなる思想の中に光のある影を残した。なぜ、光のある影というかと言えば、そこに映画という大きな陰影が介在していると言っても過言ではない。
横溝正史が登場する映画が存在している。「犬神家の一族」「病院坂の首縊りの家」の二作品である。何れも市川崑の作品であった。市川崑の映像美は言うまでもなくミステリーには唯一無二の映像であると私は確信を持っている。正に、市川崑映画は人物の側面から光を照射し、側面に影を映しだす手法で有名であった。
私には、その手法が「光ある影」という意味であると思って止まない。私が愛して止まない横溝正史の作品、市川崑の映像美は極限に一致している。市川崑の映画は、そして横溝正史の作品は人間の裏側を美しく描いている。
市川崑の映画は一部分血に塗れたものであるであるが、白々しい映画よりも余程美意識に満ちていると思う。探偵小説を人間模様の塊として描き、またその原点を作り出した横溝正史の作品は秀逸であると言わざるを得ない。